嶋田篤人写真展「そこ一里 #02」
Atsuto Shimada “Soko Ichiri #02”
- 2024.8.17 Sat. – 9.8 Sun.
- Thu, Fri, Sat, Sun and Holidays
- 12:00 – 19:00
繰り返し房総半島で写真を撮っている。写真を撮り始めた頃、私は身近な対象に目を向けたいと感じた。レンズを通して見慣れた場所と新たに出会おうと考えたのだ。低い山並みは雲に届かず、半島故この道は海で終わる。房総に生まれ育った私にとって、この象徴性に乏しい場所こそが見慣れた原風景だ。しかし見知っているはずの場所がレンズを通すことで遠い辺境のように立ち現れることがある。そしてその光景が暗室作業を経てプリントになる時、親しみ深くも他所他所しい郷愁に私はとらわれる。そうした新しい郷愁に心を震わせ、房総の旅を繰り返している。その道はまるでこの土地のお国柄言葉「そこ一里」※のようになかなか終着しない。いくら撮っても「まだ何か」という気がしてならず、後ろ髪を引かれる思いでまた撮影の旅へ向かう。一見同じように見えてもまるで小さな声のような変化がここにはある。耳をそばだて、明瞭な視線でゆっくりと歩く。そうある限り私にとっての房総半島はどこまでも果てなく続く道となる。そして私の撮った写真が存在することも、また私という存在や意識も、そうした変化と等価なモノとしてこの土地へ吸収されていくのであろう。ならばそれでよし。私は写真を通した世界観の移ろいに、確からしい寄る辺を求め撮影を繰り返している。
※房総で現地民に道のりを尋ねると「すぐそこ、あと一里だ」と答えるが、いくら行けどもその問答の繰り返しでなかなか到着しないこと。かつて浮世絵師の歌川広重は房総を旅し「菜の花や 今日も上総のそこ一里」と詠み、また夏目漱石は小説『こころ』で「我々は暑い日に射られながら、苦しい思いをして、上総のそこ一里に騙されながら、うんうん歩きました」と綴っている。
(嶋田篤人)
金柑画廊
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